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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)2359号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人梁斗容、同襄鳳煥の弁護人鈴木俊光の上告趣意一は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であり(なお、第一審判決が判示第一事実の証拠として採用している本件被告人五名の検察官事務取扱副検事に対する各供述調書は、差戻後の第一審公判において、当該被告人に対する関係においては刑訴三二二条の書面として、他の共同被告人に対する関係においては刑訴三二一条一項二号の書面として、それぞれ適法な証拠調がなされていることは記録上明らかであり、所論のように特信性がないものとは認められない。)同二は、単なる法令違反の主張であって(なお、数人間の順次の共謀による共謀共同正犯の成立については昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決、刑集一二巻八号一七一八頁によりこれを肯定することができる。)いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同三について。

所論は、原審において控訴趣意として、主張、判断されていない事項に関する主張であるばかりでなく、旧関税法(昭和二九年法律六一号による改正前のもの)八三条一項が憲法二九条に違反しないことは、当裁判所判例(「関税法第一一八条第二項-追徴の規定-は、憲法第二九条に違反しない。」昭和三一年(あ)三四三七号同三三年三月一三日第一小法廷判決、刑集一二巻三号五二七頁、「旧関税法第八三条第一項は、犯人以外の第三者の所有に属する貨物または船舶でも、それが犯人の占有に係るものであれば、右所有者の善意、悪意に関係なく、すべて無条件に没収すべき旨を定めたものではなく、右所有者たる第三者が貨物について同条所定の犯罪行為が行われること、または船舶が同条所定の犯罪行為の用に供せられることをあらかじめ知っており、その犯罪行為が行われた時から引きつづき右貨物または船舶を所有していた場合に、その貨物または船舶を没収できる趣旨に解すべきであって、憲法第二九条に違反しない。」昭和二六年(あ)一八九七号同三二年一一月二七日大法廷判決、刑集一一巻一三号三一三二頁)の趣旨とするところであるから、論旨は採用できない。(なお、本件において、第一審判決が判示第一事実につき挙示する証拠によれば、同判決別紙目録記載第一号ないし第三五五号の各貨物は、被告人梁斗容所有のものであるから、第一審判決が、旧関税法八三条一項により共犯者である被告人裹鳳煥に対しても右各物件を没収する旨の言渡をしたのは正当である。)

被告人青石道義、同米田昇の弁護人後藤助蔵の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、原審で控訴趣意として主張、判断のない事項についての主張であるばかりでなく、所論判例は事案を異にし、本件に適切でなく前提を欠くものであり、同第二点は、単なる訴訟法違反の主張であって(なお、検察官は、差戻後の第一審第一回公判において、昭和二九年四月二七日付訴因の変更請求書により訴因の変更を請求し、被告人青石、同米田及びその弁護人はこれに対し何ら異議の申立をしなかったので、裁判官は右請求を許可する旨の決定をなし、検察官は右請求書を朗読したことが記録上明らかである。右訴因の変更請求書謄本は、昭和二九年五月一日被告人青石に送達されており右請求書謄本が直ちに被告人米田に送達されなかったとしても、被告人側には右変更事実に関する防御の機会が十分に与えられたものと認められるから、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるとはいえない。)いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人花田虎太の弁護人渡辺伝次郎の上告趣意は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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